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福岡地方裁判所 昭和62年(ワ)1917号 判決 1988年3月23日

原告 甲野太郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 岩城和代

被告 工藤仁宏

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 竹中一太郎

主文

一  被告らは、連帯して、原告ら各自に対し、それぞれ金六三一万六九六三円を支払え。

二  被告工藤仁宏は、原告ら各自に対し、それぞれ金六三一万六九六三円に対する昭和五九年一〇月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告ら、他方を被告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告ら各自に対し、それぞれ金一〇一七万八七八〇円を支払え。

2  被告工藤仁宏は、原告ら各自に対し、それぞれ金二八九万五二二〇円及び金一三〇七万四〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  1、2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡甲野春子(以下「亡春子」という。)は、次の事故(以下「本件事故」という。)により、下顎骨(右オトガイ部、左関節部)骨折、顔面挫創、両肩・両膝打撲擦過傷等の傷害を負った。

(一) 日時 昭和五九年一〇月二二日午前七時四五分ころ

(二) 場所 福岡市東区八田一丁目一番三一号先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(品五八の二九三八)

(四) 右運転車 被告工藤仁宏(以下「被告工藤」という。)

(五) 被害車両 原動機付自転車(福岡市東え七四〇)

(六) 右運転者 亡春子

(七) 態様 被告工藤は、右日時に加害車両を運転して、右場所に存在する信号機のない交差点を、若宮方面から多々良方面へ向け、時速二〇キロメートルで右折進行しようとした際、対向車線上に渋滞停止していたトラック等の外側道路上を土井方面から若宮方面に向けて直進して来た亡春子運転の被害車両に加害車両を衝突させ、亡春子に対し、前記傷害を負わせた。

2  責任原因

(一) 被告工藤の責任

被告工藤は、本件事故当時、加害車両を自己のため運行の用に供していた者であり、本件事故はその運行によって生じたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、これによって生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)の責任

被告会社は、被告工藤との間で、加害車両につき自動車損害賠償責任保険契約を締結し、本件事故はその保険期間中に発生した。

3  亡春子の自殺

(一) 亡春子は、前記傷害のため、本件事故当日の昭和五九年一〇月二二日から脇丸整形外科に入院し、同整形外科において、顔面下顎部の創傷を縫合するなどの処置を受けるとともに、九州大学歯学部口腔外科に通院して、下顎骨骨折部分につき治療を受けた。

(二) しかし、亡春子は、前記顔面下顎部の創傷のため、下顎部に長さ約六センチメートルの、上口唇に約二・四センチメートルのそれぞれ線状痕を残し、更に、前記下顎骨骨折のため、開口部にも機能障害を残すことになった。

特に、右二つの線状痕のため、亡春子の顔はきわめて異様でグロテスクな感じになり、亡春子はこのことをひどく悩み、脇丸整形外科に入院を続けて第三者の目にふれることを嫌い、早々に退院を希望し、昭和五九年一一月一七日から自宅療養することになった。

(三) その後、亡春子は、食欲が減退し、また、睡眠もできなくなり、家族との会話も極端に少なくなって、遂に同年一二月三〇日、着の身着の侭で一〇万円程を持って無断で自宅を出た。

(四) そして、以後亡春子から何の連絡もなく、原告らが心を痛めていたところ、亡春子は、昭和六〇年一月二七日午前八時ころ、札幌市内の旅館「魚眠荘」の二階客室で縊首により死亡した。

4  本件事故と亡春子の死亡との因果関係

亡春子の自殺は、主に本件事故による顔面の著しい醜状(後遺障害七級相当)に心痛し、この顔では、自分の特技であるデザイナーの腕を活かした職場につくことがきわめて困難になってしまったことを悲観し、自分の将来に絶望した結果もたらされたものである。

したがって、亡春子の自殺と本件事故との間には、条件的因果関係が存在することは明らかであり、かつ、どのように少なく見積っても、本件事故は亡春子の自殺との関係で、五〇パーセントの割合的因果関係が存在する。

5  損害

(一) 入通院慰謝料 三〇万円

亡春子は、前記傷害の治療のため、脇丸整形外科に昭和五九年一〇月二二日から同年一一月一六日まで(二六日間)入院し、同月一七日から同月二一日まで(実通院日数二日)通院し、また、九州大学歯学部附属病院口腔外科(以下「九大病院」という。)に昭和五九年一〇月二四日から同年一二月二〇日まで(実通院日数九日)通院したものであり、これによる精神的苦痛に対する慰謝料は三〇万円が相当である。

(二) 治療費 合計 六一万七四〇〇円

亡春子は、前記傷害のため、脇丸整形外科及び九大病院で治療を受け、その治療費として、脇丸整形外科については五四万二四四〇円、九大病院については、自己負担分として七万四九六〇円、合計六一万七四〇〇円の損害を被った。

(三) 入院雑費 二万六〇〇〇円

亡春子は、前記のとおり二六日間脇丸整形外科に入院し、一日当り一〇〇〇円、合計二万六〇〇〇円の入院雑費を要した。

(四) 休業損害 四三万三二〇〇円

亡春子は、本件事故当日(昭和五九年一〇月二二日)から死亡した昭和六〇年一月二七日まで約三か月間、前記傷害のため稼働できなかった。

そして、亡春子は、高校を卒業後二年間の専門学校を卒業しているので、昭和六〇年度賃金センサス女性の企業規模計高専・短大卒の二二歳の統計指数一か月一四万四四〇〇円を適用すると、右期間の休業損害は四三万三二〇〇円となる。

144,400円×3=433,200円

(五) 死亡による逸失利益 三一九八万八一五七円

亡春子は、昭和三七年三月二日生まれで、死亡当時二二歳であったから、六七歳まで四五年間就労可能であったものであり、昭和六〇年度賃金センサス女性の二二歳の企業規模計高専・短大卒の平均賃金一か月一四万四四〇〇円、年間賞与その他特別給与額三八万五六〇〇円を基礎として、中間利息及び生活費を控除してその逸失利益を計算すると、次のとおりとなる(中間利息の控除につき新ホフマン係数二三・二三一を適用し、生活費の控除割合を三五パーセントとして計算する。)。

(144,400円×12+385,600円)×(1-0.35)×23.231=31,988,157円

(六) 死亡による原告らの慰謝料 各自七五〇万円

本件事故による亡春子の死亡により原告らが被った精神的苦痛を金銭に見積もると、少なくともそれぞれ七五〇万円を下らない。

(七) 葬祭費 各自四五万円

原告らは、亡春子の葬祭費としてそれぞれ四五万円宛負担し、同額の損害を被った。

(八) 相続

原告甲野太郎は、亡春子の父であり、原告甲野花子は亡春子の母であり、原告らの外には相続人はおらず、原告両名が亡春子の前記5の(一)ないし(五)の損害賠償請求権を法定相続分に応じて二分の一の割合で相続した。

(九) 損害額合計(ただし、後記弁護士費用を除く。)

原告らは、それぞれ前記(一)ないし(五)の合計金三三三六万四七五七円の二分の一の割合による金員一六六八万二三七八円(円未満切捨)と前記(六)及び(七)の合計金七九五万円とを合計した二四六三万二三七八円に、前記因果関係の存在する割合(五割)を乗じた一二三一万六一八九円の損害賠償請求権を有する。

6  損害の填補

原告らは、被告らから、それぞれ四二万一二二〇円の支払を受けた。

7  弁護士費用

原告らは、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その弁護士費用として、それぞれ一一八万円を支払うことを約した。

8  被告工藤に対する損害賠償請求権

以上のとおりであるから、原告らは、被告工藤に対し、それぞれ一三〇七万四九六九円の損害賠償請求権を有するところ、うち、九六九円の請求を放棄する。

9  被告会社の責任限度

以上のとおり、原告らは、被告工藤に対しては、それぞれ一三〇七万四〇〇〇円、合計二六一四万八〇〇〇円の損害賠償請求権を有するところ、被告会社は、被告工藤との保険契約に基づく当時の保険金額の範囲内、即ち、死亡保険金二〇〇〇万円及び死亡に至るまでの入通院期間中の損害金一切(ただし、一二〇万円を限度とし、うち八四万二四四〇円は受領ずみであるから残金は三五万七五六〇円となる。)の責任を負う。

したがって、被告会社は、右損害金のうち、二〇三五万七五六〇円の支払義務を負い、原告らは、それぞれ被告会社に対し、その二分の一の割合による金員(一〇一七万八七八〇円)の損害賠償請求権を有している。

10  結論

よって、原告らは、それぞれ被告らに対し、連帯して右損害金一〇一七万八七八〇円を支払うことを求めるとともに、被告工藤に対し、残損害金二八九万五二二〇円及び原告各自の損害金合計一三〇七万四〇〇〇円に対する本権事故の発生日である昭和五九年一〇月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告工藤)

1 請求原因1について

(一) (一)ないし(六)の事実は認める。

(二) 亡春子の傷害の内容及び(七)の事実は否認する。

2 同2(一)の事実は認める。

3 同3の事実は知らない。

4 同4の事実は否認する。

5 同5の事実は否認する。

6 同6の事実は認める。

7 同7の事実は知らない。

8 同8の主張は争う。

(被告会社)

1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2(二)の事実は認める。

3 同3の事実は知らない。

4 同4の事実は否認する。

5 同5の事実は知らない。

6 同6の事実は認める。

7 同7の事実は知らない。

8 同9の主張は争う。

三  抗弁(過失相殺)

亡春子は、被害車両に乗って、渋滞中の車道外側の路側帯を進行して事故発生地の交差点にさしかかったのであるが、このような場合、原動機付自転車の運転者としては、渋滞中の車の間から右折する車があるかも知れないので、これを予想して、徐行したり、一時停止するなどして、安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、亡春子は、これを怠り、そのために本件事故が発生したのであるから、亡春子の右過失についても斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1について

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

被告工藤は、昭和五九年一〇月二二日午前七時四五分ころ、加害車両(普通乗用自動車、品五八の二九三八)を運転して、県道福岡直方線を若宮方面から土井方面に向かって進行し、福岡市東区八田一丁目一番三一号先の信号機のない交差点で、多々良方面へ向け時速二〇キロメートルで右折進行を開始した。その際、対向車線(ただし、外側線より中央線側のみ)は渋滞し、同交差点手前でトラックなどが停止していた。そして、被告工藤が同トラックの前を進行して、対向車線の外側線を超えた地点で、土井方面から若宮方面に向かって、右渋滞停止していたトラックなどの左側にある幅約一・六メートルの外側線と歩道との間を時速約二五から三〇キロメートルで直進してきた亡春子運転の被害車両(原動機付自転車、福岡市東え七四〇)前部に加害車両左側面を衝突させた。亡春子は、本件事故により下顎骨(右オトガイ部、左関節部)骨折、顔面挫創、両肩・両膝打撲擦過傷等の傷害を受けた。

なお、原告らと被告工藤との間では、本件事故の日時、場所、加害車両、加害車両の運転者、被告車両及び被害車両の運転者については争いがない。

二  請求原因2について

1  同(一)の事実は、原告らと被告工藤との間で争いがない。

2  同(二)の事実は、原告らと被告会社との間で争いがない。

三  請求原因3及び4について

1  《証拠省略》を総合すると、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。すなわち

(一)  亡春子は、昭和三七年三月二日、原告らの二女として出生し、昭和五五年三月乙山高等学校を卒業後、専門学校丙川学院服飾産業科に進み、昭和五七年三月同校を卒業し、その後デザイン関係の仕事に就き、昭和五九年五月三〇日まで勤務した。その後、亡春子は、しばらく自営業を営んだが、不向きと考え、アルバイトをしながらデザイン関係の職を探していた。

そして、亡春子は、生来健康で、明朗、活発な性格であった。

(二)  亡春子は、昭和五九年一〇月二二日、被害車両に乗ってアルバイト先に向かう途中本件事故にあい、前記傷害を受け、そのまま福岡市東区土井一丁目一番三号所在の脇丸整形外科に入院した。

そして、亡春子は、脇丸整形外科において、下顎部の創傷部分につき縫合手術を受けるなどの治療を受けるとともに、下顎骨(右オトガイ部、左関節部)骨折部分の治療のため、同月二四日からは、脇丸整形外科から九大病院に通院し、顎間固定や開口器による開口練習等の治療を受けた。

なお、亡春子は、脇丸整形外科入院中、下顎骨骨折のため流動食以外の食物は食べられない状態であった。

(三)  そして、亡春子は、同年一一月一六日、脇丸整形外科を退院し、翌一七日から同月二一日まで(実日数二日)通院し、同日治癒との診断を受けた。また、九大病院には、同年一二月二〇日まで(実日数九日)通院し、前記骨折部分の治療を受け、同日治癒との診断を受けた。

(四)  しかしながら、亡春子の下顎部の二か所の創傷部は、上口唇については長さ約二センチメートル、下顎部については長さ約六センチメートルのそれぞれ線状痕の後遺障害が残り、上口唇の線状痕はぎざぎざ状を呈し、下顎部の線状痕は、縫合した跡が生々しく、肉が盛り上がったようになって赤く帯状になっており、これは自賠責保険の後遺障害等級第七級一二号に該当するものであった。

そして、右二つの線状痕のため、亡春子の顔は、顎が突き出た感じに見え、事故前と大きく人相が変わり、醜くなった。

なお、右二つの線状痕が、将来薄らぐか否かについては、亡春子の体質的な面もあって、専門家においても予見不可能なものである。

(五)  亡春子は、脇丸整形外科を退院したのち、前記後遺障害を気にして、通院に出かけるほかは外出することもなく、家に籠るようになった。

そして、亡春子は、本件事故以前は活発で、友人や原告ら両親ともよく話をしていたが、次第に口数が少なくなり、友人が自宅に見舞に来ても顔を俯せたままで、あまり話をせず、また、友人から電話がかかってもその電話に出なくなり、原告らとの会話も少なくなった。

また、亡春子は、次第に食欲も減退し、更には「眠れない。眠れない。」と不眠を訴えるようになった。

そして、春子は、原告らや友人からの勇気づけの言葉に対しても、殆ど反応を示さず、原告らが、「将来整形手術をしよう。」と持ちかけても、「手術をせず、このままで良い。」と答える有様であった。

亡春子の食欲不振、睡眠障害は更に進行し、亡春子は、自室でぼんやりと過ごす日が続き、原告甲野花子が亡春子の部屋をのぞくと、亡春子は、鏡の前で自分の顔を見続けていたこともあった。

そして、亡春子は、後記家出をする直前には、原告らから話しかけられても首を振って答えるだけであったり、後を向いてしまうという状態になった。

(六)  そして、昭和五九年一二月三〇日、亡春子は、原告甲野花子が買い物に出かけた間に、預金から引き出した一〇万円を持って、普段着のまま家出をし、以後原告らには全く連絡をとらなかった。

(七)  その後、亡春子は、昭和六〇年一月二七日午前八時ころ、札幌市内の旅館客室において、縊首により死亡した。

なお、亡春子は、偽名で右旅館に宿泊していたため、その身元が判明せず、昭和六一年八月六日、原告らは漸く亡春子の自殺を知るに至った。

(八)  なお、亡春子には、本件事故による前記後遺障害のほか、自殺の動機となるような事情は見当たらない。

2  以上認定した事実によれば、亡春子は、前記上口唇と下顎部の後遺障害により自己の将来に強い不安を抱き、抑うつ的な状態に陥り、結局自殺に至ったものと推認され、亡春子の主な原因は、本件事故による後遺障害にあるものと認められる。

3  そして、交通事故により後遺障害が生じた場合、その部位・程度等によっては、その治癒の見込みや将来に対する不安などから抑うつ状態に陥り、そのために自殺することも必ずしも稀な事態とはいえない。

本件においては、亡春子は、未婚の当時二二歳の女性であり、その傷害の部位は、唇及び顎という人目につきやすい場所であり、その程度も後遺障害等級第七級に相当する著しい醜状であり、亡春子が自分の将来に強い不安を抱き、抑うつ的な状態に陥り、自殺に及んだことは決っして予見不可能な特異な事態ということはできず、かかる場合には本件事故と亡春子の死亡との間には因果関係があるというべきである。

もっとも、顔面に傷害を受けても、その不幸に負けずに強く生きぬいている女性も多く、亡春子のように抑うつ状態に陥るか否かは、その素質、生活環境等に大きく左右されるものであるところ、これらは専ら被害者側の固有の事情に属するものであるから、亡春子が自殺したことにより生じた損害のすべてを加害者側に負担させることは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念からみて、相当でなく、亡春子が抑うつ的な状態に陥り、自殺するに至ったことにつき、本件事故による傷害の寄与した限度においてのみ加害者にその責任があるというべきである。

そして、前記認定の諸事情を総合勘案すると、亡春子の自殺に対する本件事故の寄与の割合は、これを三五パーセントとみるのが相当である。

四  請求原因5について

1  入通院慰謝料 三〇万円

前記三1で認定したとおり、亡春子は、本件事故による傷害の治療のため、脇丸整形外科に昭和五九年一〇月二二日から同年一一月一六日まで(二六日間)入院し、同月一七日から同月二一日まで(実通院日数二日)通院し、また九大病院に同年一〇月二四日から同年一二月二〇日まで(実通院日数九日)通院したものであるから、これにより被った精神的苦痛に対する慰謝料は三〇万円をもって相当であると認める。

2  治療費 六一万七四〇〇円

《証拠省略》によれば、亡春子は、前記傷害についての治療費として、脇丸整形外科については五四万二四四〇円、九大病院については自己負担分として七万四九六〇円、合計六一万七四〇〇円の損害を被ったと認められ、この認定に反する証拠はない。

3  入院雑費 二万六〇〇〇円

前記認定のとおり、亡春子は、前記傷害の治療のため、脇丸整形外科に二六日間入院したものであり、経験則によると、右入院期間中一日当り一〇〇〇円の割合による入院雑費を要したと認められるから、結局、亡春子は、本件事故により、入院雑費として二万六〇〇〇円の損害を受けたと認められる。

4  休業損害 四二万〇六〇〇円

前記三1で認定したとおり、亡春子は、昭和三七年三月二日出生し、昭和五五年三月高校を卒業し、昭和五七年三月二年間の専門学校を終了した健康な女子であり、本件事故当時二二歳であった。そして、亡春子は、本件事故による傷害のため昭和五九年一〇月二二日から同年一二月二〇日まで脇丸整形外科及び九大病院に通院し、その後昭和六〇年一月二七日自殺するまで抑うつ的な状態に陥り、職業に就いていなかった。

したがって、亡春子は、本件事故のため昭和五九年一〇月二二日から自殺するまでの三か月余り休業を余儀なくさせられたというべきである。

よって、昭和五九年度賃金センサス女性の企業規模計高専・短大卒二二歳の平均給与額、月額一四万〇二〇〇円を適用して右三か月の休業損害を算定すると四二万〇六〇〇円となる。

5  死亡による逸失利益 一〇八五万八六六八円

前述したとおり、亡春子は、昭和三七年三月二日生まれで、死亡当時二二歳であったから、六七歳まで四五年間就労可能であったというべきであり、昭和五九年度賃金センサス女性の企業規模計高専・短大卒の平均賃金一か月一四万〇二〇〇円、賞与その他特別給与額年間三七万二二〇〇円の収入を得ることができたと推認できるので、これを基礎として、生活費として三五パーセントを控除し、新ホフマン方式により中間利息を控除して亡春子の逸失利益を算出すると、三一〇二万四七六八円(円未満切捨)となる(計算式は次のとおり)。

(140,200円×12+372,200)×(1-0.35)×23.231=31,024,768円

そして、前記三で判示したとおり、亡春子の自殺に対する本件事故の寄与の割合は三五パーセントであるから、これを前記金額に乗じると、一〇八五万八六六八円となる。

6  死亡による原告ら各自の慰謝料 各自二五〇万円

前記認定のとおり、原告らは亡春子の実父母であり、亡春子の自殺により多大の精神的苦痛を被ったものと認められる。

そして、本件事故の態様、亡春子の年齢、家族関係、亡春子が自殺するに至った経緯、その他本件における一切の事情を考慮すると、亡春子の死亡により原告ら各自が被った精神的苦痛を慰謝するには、それぞれ二五〇万円をもって相当と認める。

7  葬祭費 各自一五万七五〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告らが亡春子の葬儀を執り行なったことは明らかであるところ、亡春子の年齢、社会的地位等から判断すると、その葬祭費用は九〇万円をもって相当である。そして、亡春子の自殺に対する本件事故の寄与の割合は三五パーセントであるから、これを乗じると、原告ら各自が請求し得る葬祭費はそれぞれ一五万七五〇〇円である。

8  相続

前記認定のとおり、原告らは亡春子の両親であり、《証拠省略》によれば、原告らの外には相続人がいないことが認められる。

したがって、原告らは、亡春子の前記1ないし5の合計金額一二二二万二六六八円を法定相続分に応じて二分の一の割合で相続したと認められるので、その金額は六一一万一三三四円となる。

9  損害額合計(ただし、後記弁護士費用を除く。)

そして、右六一一万一三三四円に原告ら各自の損害金である6及び7の金額を合計すると、八七六万八八三四円となる。

五  抗弁(過失相殺)について

前記二で判示したとおり、本件事故は、被告工藤が福岡市東区八田一丁目一番三一号先の信号機のない交差点を右折進行した際、対向車線を直進してきた亡春子運転の被害車両に加害車両左側面を衝突させたというものである。そして、亡春子が進行していた車線(ただし、外側線より中央線側のみ)は渋滞し、右交差点手前にはトラックなどが停止していたが、亡春子は、渋滞、停止していた車両の左側(幅約一・六メートルの外側車線と歩道との間)を時速約二五から三〇キロメートルで進行していたものである。

思うに、自己の進行する車線に渋滞、停止している車両があって、その左側を原動機付自転車を運転して進行する際には、渋滞、停止している車両の間から自己の進路に飛び出してくる車両又は歩行者がないか注意して運転する義務があり、しかも、交差点に差しかかった場合には、減速、徐行するなどして、右折進行する車両との衝突を回避できるように運転すべき注意義務があるというべきである。

しかるに、亡春子は、前述したとおり、幅が約一・六メートルある外側線と歩道との間であるとはいえ、時速約二五から三〇キロメートルの速度で進行していたものであるから、亡春子についても本件事故につき過失があることは明らかである。他方、被告工藤については、対向車線を直進して来る車両のないことを十分確認したうえで右折進行する義務があったにもかかわらず、右確認を怠った基本的な過失が認められ、被告工藤のかかる過失の内容、加害車両と被害車両の車種の違い、本件事故の態様その他諸般の事情を総合勘案すると、本件事故に対する亡春子の過失の割合を三割とするのが相当である。

したがって、過失相殺後の原告ら各自の損害金は六一三万八一八三円(円未満切捨)となる。

六  請求原因6及び7について

請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

したがって、右填補後の原告ら各自の損害金は五七一万六九六三円となる。

そして、原告らが原告ら両名訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の難易、審理経過、本件認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有するものとして請求し得べき弁護士費用の額は、原告ら各自六〇万円とするのが相当である。

七  請求原因8及び9について

以上のとおりであるから、被告工藤は、原告ら各自に対し、六三一万六九六三円の損害賠償責任があり、同金額は本件事故当時の自動車損害賠償責任保険の範囲内であるから、被告会社も、被告工藤と連帯して同額の賠償責任がある。もっとも、原告らは、被告会社に対しては、遅延損害金の請求は一切していない。

八  結論

以上によれば、被告らは、原告ら各自に対し、連帯してそれぞれ六三一万六九六三円を支払う義務があり、被告工藤は、原告ら各自に対し、それぞれ六三一万六九六三円に対する不法行為の日である昭和五九年一〇月二二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

したがって、原告らの被告らに対する本訴請求は、右限度で理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大谷辰雄)

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